クルマと水、この必要不可欠なもので サステナビリティ社会を実現させる
好調ポルシェジャパンを率いるフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ社長がいま、何を見て何を思考しているかを解き明かすクロスインタビュー。ゲストは紙パックナチュラルウォーター「HAVARY’S JAPAN NATURAL WATER」で知られるハバリーズCEO矢野玲美(やの・れみ)さん。果たしてサステナブル社会の実現に向けた共通の思いとは。
Text by AOYAMA Tsuzumi|Photographs by FUJII Yui|Edit by MAEDA Yoichiro
紙パックナチュラルウォーターの採用から
「素晴らしい活動をしている方々と交流したいものですね」
ポルシェジャパンのCEO着任から1年。コロナ禍を全力でハンドリングしてきたフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ社長にとって、より深い日本マーケットの探索はむしろこれからだ。
ポルシェが日本国内においてその販売台数においても営業利益においても好調であることは周知の通りだ。しかし、本国はもちろんフィリップ社長らが見据えているのはすでにはじまっているサステナブルで多様な価値観を内包する社会の到来と、そんな世界における自動車産業の役割とポルシェブランドのリプレイスメントだ。だからこそ、新しい発想と柔軟な思考をもつ魅力的な人との交流はフィリップ社長たっての願いでもある。そこでOPENERSではフィリップ社長と日本のイノベーティブな思考をもつビジネスパーソンとのクロストーク企画を立案した。その第一回は、サステナブルな生活様式への提案として紙パックナチュラルウォーター「HAVARY’S JAPAN NATURAL WATER」を率いるハバリーズCEO矢野玲美(やの・れみ)さんとのクロストーク。
お気づきの方も多いと思うが、ポルシェディーラーを訪ねるとスタイリッシュなデザインの紙パックのナチュラルウォーターが供される。それがハバリーズだ。ハバリーズの設立は2020年夏。ペットボトルに比べ地球温暖化リスクを40%削減するという紙のパッケージはメディアやサステナブルに関心を持つ企業からの注目を集めた。2022年8月には、輸入自動車メーカーとして初となる、ハバリーズとポルシェのコラボレーションが実現。以後、全国のポルシェ販売店で、オリジナルデザインでの紙パックナチュラルウォーターを導入している。
1本の水から世界が変わる
<矢野社長>
「2020年の夏にハバリーズを創業し、“1本の水から世界が変わる”をキャッチコピーにしながら紙パックのナチュラルウォーターをサステナビリティのための具体的なアクションとして展開してきました。多くの企業が理念に共感していただくなかで、ポルシェジャパンさんからオファーをいただいたのは当社にとって大きな一歩となりました。
ポルシェさんは世界で知られるラグジュアリーブランドです。そんなポルシェさんの活動は大きなインパクトを与えます。実際、このコラボレーションを受けて他の有名な企業や、ハイブランドさんから、同様のコラボレーションをしたいとお声がけをいただくようになりました」
ポルシェが目指す目標とハバリーズのメッセージが一致
ハバリーズとのコラボレーションは、ポルシェが目指すカーボンニュートラルへの動きにぴたりと合っていたと語るフィリップ社長。プラスチックによる環境汚染に対しての問題提起というメッセージにもなると総括する。
<フィリップ社長>
「日本で初めて紙のパッケージを採用したナチュラルウォーターであるということでしたが、これまで他のメーカーが取り組んでいなかったということにも驚きました。そして私が個人的に一番嬉しく思っているのは、このコラボレーションのテーマが水であるということです。水は世界、地球最大の最も重要なアセットです。そして水というテーマは、地球全体の気候に影響を及ぼす海と深い関係があり、水を考えることはまた環境問題への議論にも繋がります」
ハバリーズが取り扱っているのはミネラルウォーターではあるが、矢野社長は「私達はただ水を売っているわけではないのです」と強調する。ペットボトルではなく紙パックを使う、その姿勢そのものが環境配慮への意思表示になる。すなわち、ハバリーズが取り扱っているのは水ではなくメッセージだということだ。
企業レベルから個人レベルでの意識変化へ
実際、ハバリーズの取引は、社会的な責任が大きい上場企業や外資系企業、そして知名度の高いラグジュアリーブランドが大多数を占めるという。
<矢野社長>
「企業として環境に配慮する取り組みをしている一方で、そこで働くひとりひとりは自宅でどうしているでしょうか。会社では紙パックの水を飲んでいる方が、自宅でもペットボトルではなく紙パックを選択する。そういうところまで辿り着くには、まだ課題があると感じています」
多くの企業が環境配慮に取り組む流れは今後もますます加速するだろう。しかし個人のマインドセットを変えるまでには、いまは至っていないと矢野社長はいう。そしてフィリップ社長も矢野社長の意見に首肯する。
<フィリップ社長>
「企業として従業員全員でプラスチックの対策を行っていきたい。そして個人のマインドセットを変革させるための取り組みも一緒に行っていきたいと思います」
そんなフィリップ社長に、矢野社長は次のハバリーズの取り組みを説明する。ハバリーズの紙パックを回収し、トイレットペーパーとして再生するという循環型社会への貢献の取り組みだ。
<フィリップ社長>
「ぜひディーラーネットワークに対してご提案いただきたいと思います。コラボレーションにより環境をどんどん良くしていけるのは素晴らしいことです。ポルシェジャパンではすべての販売店代表者に参加していただく販売店会議を行っていますが、次回開催時には矢野さんを招待させていただくので、ぜひ魅力的な形でプレゼンテーションしてください」
日本は環境問題に対してよい変化を起こせる可能性がある
ドイツ出身のフィリップ社長が、日本で1年を過ごして感じたことのひとつに、日本の社会には強い同調性があることだ。個人主義のヨーロッパに比べると風向き次第で一気にマインドセットの変化を起こすことができるのでは、と推察する。
<フィリップ社長>
「だからこそ、大事なのはメッセージを伝えることなのです。マーケットに対してメッセージを伝え続け、認知と理解を高めていくこと。そうした活動が結果として大きな変化に繋がるのだと思います。しかし大胆すぎる変化は必ず失敗します。バランスを見極めることもまた重要ですね」
消費動向は、すなわち「豊かさ」をどう捉えているかが色濃く反映される部分だ。例えばモノ消費からコト消費への転換や、消費に対して積極的な世代の価値観が大きく影響する。
QOLを高めたい消費者に選ばれる企業とは
物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさの重視。消費者にとっては、商品はそれがサステナブルなものなのか、それを世に出している企業は正しいストーリーを持っているのかという点が大切になりつつある。
<矢野社長>
「もちろん生きていくうえで物質的なものは大事です。移動のためにクルマは必要ですし、生活のために衣服も必要。そのときにどんなクルマを選ぶのかということの価値観が重んじられていますし、衣服もどんな素材が使われているのが重視される時代になりました」
<フィリップ社長>
「本当に矢野さんがおっしゃる通りです。豊かさはもうお金とはほとんど関係なくなっていますし、さまざまな調査結果を見ると、お金持ちであることが幸せであるとはもう言い切れなくなっている。個人レベルではコロナの経験を経て健康への思考が強くなりました。当初は個人の健康がフォーカスされていましたが、いまは良い食べ物のためには地球も健康でなければいけないというところまで進んで、次の段階へと入ろうとしています」
企業が果たす社会的責任も大きくなるとフィリップ社長は言う。すなわち、環境問題を解決するためのテクノロジーを開発するのは企業の役割であるし、生活の変化や意識の変化を下支えするのもまた企業であるからだ。
そして企業が持続的に取り組みを続けるためには利益をあげ、次の投資につなげるという循環が必要である。そうした社会的責任を果たしている企業こそが消費者に選ばれる。
<フィリップ社長>
「ハバリーズさんについても、どんどん伸びていっていただきたいと思っています。そうすればさらに大きなインパクトを出すようなコラボレーションができるでしょう。期待しています」
フィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ
ポルシェジャパン代表取締役社長。メルセデス・ベンツのカナダ、ドイツおよび海外市場での管理職などを経て、2019年4月からドイツのポルシェ直営リテールハンブルク取締役会長。2022年7月1日より現職。
矢野玲美
ハバリーズ代表取締役社長。大学卒業後、技術系商社で中東プロジェクトを担当しながら、家業のミネラルウォーター製造メーカーの役員として業務を行う。2020年6月に株式会社ハバリーズを立ち上げ、2022年11月にリサイクルエコシステムを構築し紙資源の循環を推進する。株式会社ハバリーズが展開する、サステナブルな紙パックウォーターは、2022年8月よりポルシェ正規販売店で採用されている。
出典:Web Magazine OPENERS