連載エッセイ|#ijichimanのぼやき
第44回「健康的な昼メシ」
歳を重ねると、意識的であれ無意識的であれ、食に対する嗜好(志向)が変わってくる。若い頃はカルビon the ライスが最強だったが、いつの間にか寿司や焼き鳥に。飲んだ後のラーメンが蕎麦、または麺抜きのラーメンに(なんじゃそりゃ)。同じく昼メシも大盛ラーメン+半チャン+餃子が、焼き魚定食になる。健康診断の数値が気になり、肥満、高血圧、糖尿病・・・ありとあらゆる生活習慣病を恐れて意識的に我慢や忍耐をして変えてる人もいるが、欲求として本能的にヘルシーなものを求めてくるようにもなってくる。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
オーガニック、ナチュラル、ビーガン、グルテンフリー・・・ここ何年かで、さまざまに一般化した食の健康志向があって、それらをライフスタイルに取り入れる人が増えた。賛否両論あるけれど僕は否定も肯定もしない。取り入れる人たちが精神的に心地よくて、“それ以外の”志向の人たちを否定しないで、他人に推奨や提唱もしないなら、最高だと思う。ちなみに僕自身は、先述の健康志向はどれも取り入れてないし、取り入れようと思ったこともないけど、「その時食べたいと思うものを食べる」「でも食べ過ぎない」「間食はしない(空腹状態で食べる)」「人の手で調理されているものを食べる(加工品はできるだけ避ける)」というのを、三十を過ぎたあたりからずっと確立している。
話を戻すと、四十にもなると、若い頃は見向きもしなかったような健康的な昼メシを体が求める時がある。夜の外食が続いている時、疲れている時、あるいは相手がそういう食事を求めている時。かといってそういう時に、サラダバーでキヌアサラダをたんまり食べようという気も、ウッディなカフェでサラダとスープとキッシュで1780円のランチを食べようという気もさらさらない。ただ単に、油や糖質を控えて、なるだけ魚や野菜、米や玄米・大豆を中心とした、消化に良さそうで代謝が良さそうなものを食べたいだけである。そう、「良さそう」で良いのだ。
やげんぼり:赤坂
■やげんぼり:東京都港区赤坂3-19-5
明治時代に京都祇園で始まった京料理店。僕も子どもの頃両親に京都のお店に連れてってもらった記憶が残っているくらい、品格と趣がある老舗。そのやげんぼりが赤坂にある。赤坂も昔ながらの料亭街の名残を感じさせる粋な佇まい。夜は本格的な懐石でもてなしてくれるが、昼は手ごろに楽しめる。ここのランチはなんといっても、ふわふわとろとろの贅沢なだし巻き卵。圧倒されるサイズ感に一体何個卵を使っているの!? と聞いたら、どうやら2-3個らしい。美味しい出汁をふんだんに使っているからこれだけのサイズになるらしい。だし巻き卵をメインに、お新香やじゃこ、赤だし、御櫃からの炊き立てごはん、いくらでも食べられそうな組み合わせなのに、どれだけ食べてもギルティーフリーな贅沢。夏の冷や汁も最高。粋な佇まいと凛とした空気感とあわせて楽しみたい。
尾張屋:神田
■尾張家:東京都千代田区鍛冶町1-6-4
昭和2年創業の神田の老舗おでん屋。昼も暖簾をくぐると多くの常連で賑わい、12時台はすんなり入れることは少ない。カウンターが基本だが奥には小上がりもあって、昼でも予約も可能。メニューは、おでん定食と刺身定食、両方ついてくるセットの3つ。もちろん両方ついてくるセットがいい。毎回ついてくるミニトマトは糖度高めで安心感抜群。老舗おでん屋なので、おでんの美味しさは期待値に違わずだけど、なにせここは刺身も絶品。毎朝仕入れる旬で新鮮な魚の日替わりだそう。この魚がめちゃめちゃ美味しい。最初は、看板料理以外のメニューだし、しかも昼だし、何の気なしに頼んだだけだったけど、その魚の美味しさに驚いた。京橋や大手町でアポがある時にちょいと足をのばして。できれば、昼から1杯飲める時がオススメ。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
出典:Web Magazine OPENERS