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1つの空間に、2つの人気レストラン。フレンチ「amphis」と、イタリアン「無垢」が共存する理由

amphis|アンフィス

無垢|ムク

その動向に、フーディーのみならず料理人も高い関心を寄せている「長谷川稔」グループ。なかでも、実験的な取り組みの場として知られる西麻布「長谷川稔Lab.」では現在、1つの空間に店名もジャンルもまったく異なる2つの店が共存し、話題を呼んでいる。フレンチ「amphis」とイタリアン「無垢」は、それぞれコース一本勝負の店ながら、2ヶ月先の予約枠までほぼ埋まっている人気店同士。そんな2つの店が空間をシェアする意味とは? 4人の料理人の役割とは?“Lab.”らしい、料理人・業態・空間の最新形態で、その答えを探る。

Text by FUJII Aki|Photograghs by SUZUKI Taisuke

ひとつの空間に、4人のシェフが立つ理由

U字を描くカウンターは、ちょうど中央で空間を分けるようにして、6席ずつ2つのレストランが向かい合う。フレンチの「amphis」と、イタリアンの「無垢」である。

2つの店には、それぞれ実力派のシェフが2人ずつ。単純に考えれば、4人の手技を間近に望める、なんとも贅沢なカウンターレストランに違いない。とはいえ、あくまでここにあるのは別々の店。「2店の料理を少しずつ味わう」というわけにはいかない。

では、ひとつの空間に2つの店を共存させる意味とは何か。

それは、異なるフィールドで経験を積んだ4人のシェフが、互いの存在に刺激を受け、競い合い、切磋琢磨できること。目の前のゲストに向き合いながら、もう一方のカウンターで生まれる皿にも意識を向ける。その緊張感が、思わぬ成長や新たな表現につながり、結果として一皿の精度をより高めていく。

カウンターの中央を境に、キッチンも完全に分離

“またアレが食べたい”を生む、フレンチと洋食の記憶「amphis」

古代ギリシャ語で「両方」を意味する「amphis」。その名の通り、こちらでは2人のシェフがタッグを組み、フレンチの確かな技術に、洋食の懐かしい記憶や遊び心を重ねたコースを繰り広げる。

コースの〆に登場する、「amphis」の焼印を加えた「おむらいす」。土鍋で炊いたお米に、宮崎県「河中農園」の「よかもよか卵」と自家製ケチャップで仕立てた、素材を味わう一品

手がけるのは、フランス料理歴20年以上、神泉の人気ビストロ「urura」でシェフを務めた高橋一男さんと、洋食店を経験後、「キュイジーヌ [s] ミッシェル・トロワグロ」などの名店を中心に12年間フランス料理を学んだ中島慎弥さんだ。

季節を彩るジオラマの前菜を盛り付ける、中島慎弥さん。1992年生まれ。調理師専門学校を卒業後、22歳から料理の世界に。洋食店での修業後、ハイアット リージェンシー 東京へ入社し、「キュイジーヌ [s] ミッシェル・トロワグロ」では2019年の閉店までの約5年間、コールド、ガルニチュール、ソーシエなど各部門を経験。

「僕らはフレンチの経験が長かったので、当初はアペリティフから始まりアミューズ、前菜、温菜、ポワソン(魚)、ヴィアンド(肉)、デセールへと続くクラシックな流れのコースを考えていました。けれどオーナーから『そもそもメインに向かってだんだんと山を登っていくようなコースである必要ってあるの?』と問いかけられ、自分たちの中にあった固定観念が覆されました」(中島さん)

そこで生まれたのが、メインを一皿に集約するのではなく、コースの中に何度も“山場”をつくる構成だ。序盤にひとつ目のメイン「和牛のパイ包み」を据え、中盤にふたつ目の肉料理、さらに終盤の〆の食事は「おむらいす」「ラーメン」「焼きたてキッシュ」など3種類から選ぶことができる。望めば3種類すべて味わうこともでき、「どのくらい食べられますか?」というやりとりを交わしながら、たとえば「おむらいす」であれば好きな分だけカットしてもらえる。

「結局、店に通う理由って『またあそこのアレが食べたい』と記憶に残るメニューがあることだと思うんです。開業までの期間、二人で意見を出し合い、とにかくたくさんのメニューを提案しました。オーナーや長谷川稔シェフに試食してもらい、ときには『こうしたほうがいいのでは』と具体的な助言を受ける。そうして選び抜かれた料理をさらにブラッシュアップした『オニオングラタンスープ』や『ブイヤベースのコロッケ』、『和牛のパイ包み』などが、定番メニューとしてコースに組み込まれました」(高橋さん)

何度も試作と検証を重ねた料理だからこそ、「amphis」のコースには設計された完成度がある。どの料理にも隙のない説得力がありながら、ふとした瞬間に思い出す親しみもある。そんな“記憶に残るメニュー”を持つことが、この店の強さなのだろう。

高橋一男さん。1986年生まれ。大学在学中にアルバイトで入った飲食店で料理の面白さに目覚め、大学を中退。以後、調理師専門学校を経て、料理人の道を歩む。外苑前「レストラン タニ」、シェフを務めた神泉の人気ビストロ「urura」など、フランス料理歴は20年以上。

客席と厨房、フィードバックが多方向に循環する「無垢」

店名の「無垢」は、2人のシェフである山口純平さんの「純」と、堤 真太郎さんの「真」に由来する。純粋の「純」と、真実の「真」ーー。2人の名前から生まれた店名であり、まっさらな状態で料理に向き合う、この店の姿勢そのものである。

「あつあつ」
マルゲリータを包んだ蕎麦粉のガレット。「いかにピザ専門店が作れないソースにできるかで、勝負しています」と堤さん

薪焼きを得意とする中目黒の人気店「RODEO」出身で、イタリア料理歴20年以上の堤さんと、ミシュラン一つ星フレンチである代官山「サンプリシテ」で経験を積んだ山口さん。それぞれイタリア料理とフランス料理の最前線に身を置いてきた者同士、手数は多彩だが、「僕らのコースは、手探りの状態からスタートしました」と、堤さんは振り返る。

「定番料理をあらかじめ決めずに、1年半、メニューを考え続けました。その都度、お客さまの表情や反応を見ながら、“これは残そうか”と判断したり、コースメニューから外すと『あれ、ないんですか?』と言われることもあったり…日々の手応えを大切にしながら出来上がったのが、今のコースです」

堤 真太郎さん。1986年生まれ。「リストランテ・ダ・バッボ」や、薪焼きを得意とする中目黒の人気店「RODEO」で研鑽を積み、「RODEO & Cafe」では立ち上げ時のシェフを担有など、イタリア料理歴20年以上。「無垢」では焼き場とパスタを司る。

いつしかスペシャリテとなった、やま幸のマグロを使った「大トロのタルタル」や、蕎麦粉のガレットでマルゲリータを包んだ「あつあつ」に続き、〆のパスタ“5種”が「無垢」というレストランを象徴する特徴となった。

「毎日同じ料理を作り続けていると、その味がお客さまに本当に届いているのかが不安になるので、互いに味を確かめ合い、率直に意見を交わすことも欠かしません。2人のシェフがいることで、お互いが“お客さまと料理人”の役割を担っている感覚です」(山口さん)

山口純平さん。1994年生まれ。「ピエール・ガニェール・ア・東京」のDNAを受け継ぐ入江 誠氏の店「イリエ ル ジョワイユー」を経て、シャルキュトリー専門店やミシュラン一つ星フレンチである代官山「サンプリシテ」を経験。

客席と厨房、そして2人のシェフの間でフィードバックが多方向に循環することで、「無垢」の料理は少しずつ更新されてきた。柔軟な姿勢と、常に“まっさらな状態”に立ち返ることで、飽くなき進化を遂げているのだ。

食後に“続き”が生まれる、2つの店の関係

2つのレストランのワインを担うのは、ソムリエの金子徳御さん。ゲストがこれまでに飲んだワインはすべて顧客情報として残し、次回の提案に生かしているという。とはいえ基本にあるのは、個性豊かな「amphis」と「無垢」それぞれの料理を尊重したペアリング。

「牛フィレにアスパラ、黒毛和牛のタンなど、複合的なおいしさを詰めた料理には、優しくも凛としたワインを選びました。『銀の鴨』のしっかりとした風味と歯ごたえには、果実感と凝縮感のあるワインが寄り添ってくれます」と金子さん。

フランス料理、イタリア料理という枠にとらわれず、世界各国のワインが楽しめるペアリングも、この場所の魅力だ。

ひとつの空間で共存しながら、互いに刺激を受け、競演する「amphis」と「無垢」。まさに“Lab.”らしい、料理人・業態・空間の最新形態ではないだろうか。

ゲストにとっても、目の前のコースを味わいながら、ふと対岸の皿に目を奪われる。「次は向こうも食べてみたい」。そんな“続き”が自然に生まれることこそ、2つの店が同じ空間にある理由なのかもしれない。

Amphis(フレンチ) 

席数|6席 

料金|コース3万250円、ペアリング+2万2000円(税込・サ別)

無垢(イタリアン) 

席数|6席 

料金|2万7500円、ペアリング+2万2000円(税込・サ別)

場所|東京都港区西麻布4-2-2 バルビゾン92-3階

時間|ディナー 17:30~、20:30〜

定休日|月曜、土曜、日曜

問い合わせ先

長谷川稔Lab
Tel.03-6451-1755

※予約方法

Amphis:https://omakase.in/r/im190147

無垢:https://omakase.in/r/fw320155

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