DS 7 OPERA E-TENSE 4×4|DS 7 オペラ イーテンス 4×4
最新のフレンチラグジュアリーSUV「DS 7」で箱根へ
クリエイティブ・ディレクターのムラカミカイエさんと、フランス車に精通した自動車ライターの南陽一浩さんが「DS 7」で箱根のアート&美食スポットを巡りながら、同車の独自性や魅力について語り合った。
Text by NANYO Kazuhiro|Photographs by NAGAO Masashi|Edit by YAMAGUCHI Koichi
フレンチラグジュアリーの粋を結集したSUV
「アート・オブ・トラベル(旅することの芸術)」を掲げ、ビッグマイナーチェンジを遂げたフレンチラグジュアリーSUV「DS 7」。シトロエンの一車種を起源とするDSが独立ブランドとして歩み出して早9年。従来の「DS 7クロスバック」から進化するにあたり、あえて「クロスバック」を車名から外した。
この最新世代も、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の公用車として選ばれたことが発表されている。
フレンチラグジュアリーの粋を結集したGTのようなSUVを、箱根へのショートトリップを通じてクリエイティブ・ディレクターのムラカミカイエさんが試乗体験しながら、在仏経験のある自動車ライターの南陽一浩が聞き手となって車両解説していく。
気鋭のクリエイティブ・ディレクターが語る、DS 7のエクステリアデザイン
三宅デザイン事務所に勤めた後に独立し、SIMONEの代表として国内外の企業やブランドに向けてデザインやビジネス、テクノロジーのクリエイティブコンサルティングを行うムラカミカイエさん。パリコレや「プルミエール・ヴィジョン」という服飾生地の見本市のため、パリへも定期的に出張している彼は、DS 7を一歩引いた距離から眺めて開口一番、こう評した。
ムラカミ「これ、ベジエ曲線の塊のようなエクステリアですね。少なくともデザイナーの目線で見ると」
ベジエ曲線とは、任意のポイントを関数で導いて結ぶことで描かれた滑らかな曲線のことで、CADやコンピュータグラフィックを扱うデザイナーが今も多々用いる技法。元をたどれば自動車のボディを描くために1960年前後、フランスで編み出された。
南陽「リアハッチ周りやフェンダーの膨らみといったボディラインもそうですけど、新たに加えられた透過光のデイライトのLEDランプも、同様ですよね。DSのデザインチーム自体はこのデザイン言語を『パラメトリック・デザイン』と呼んでいます」
DS 7のフロントマスクには、新たな意匠としてこれまでにない個性的なデイライトが採用されている。「DSライトヴェール」と呼ばれるそれは、バンパー内側から放たれる柔らかい透過光が印象的だが、もちろん周囲からの視認性も十分に確保されている。
ムラカミ「今でこそコンピュータのプログラムで描けるものですけれど、1950年代のオリジナルのDS 19のデザインを手掛けたのはフラミニオ・ベルトーニですが、あれは魚のような滑らかなデザインを意識したと聞いたことがあります。
戦後の工業デザインといえばバウハウスからイタリアンモダンなどの実用面に即した流れがありますが、そのカウンターとしてのフレンチ・アヴァンギャルドの再興がシトロエンのDNAと融合したんでしょうね」
南陽「やはりフランス人は、アヴァンギャルドが好きですよね。でも、それは奇抜なものじゃなくて、将来的に時間が進んだときに、古典となり得るものという感覚ですね」
リアコンビネーションランプの、赤い光を拡散する魚のウロコのような反射板も、よく見れば一枚として同じ大きさや形はなく、まさしく前後のライトがよりパラメトリックになって、デザイン上の完成度を高めたといえるだろう。
ポーラ美術館「部屋のみる夢」展とDS 7のインテリア
箱根で最初に訪れたのは、昨年、開館20周年を迎えたポーラ美術館。周囲の自然環境に配慮して設計された建物が印象的だ。
DS 7を駐車してから、新緑に包まれた通路を渡って、背景の山に調和したガラス屋根の美しい建物の中に入っていくという、自然に脈拍や気持ちを整えてくれるようなアプローチごと心地よい。ウェルネスと美が同居する空間といえる。
ムラカミ「箱根や伊豆はよく来ますから、ここにも1年に何度かは立ち寄っています。最後に来たのはロニ・ホーン展(2021-22年開催)のときです。コレクション作品として現在展示されている、ゲルハルト・リヒターも楽しみですね」
まずは企画展「部屋のみる夢―ボナールからティルマンス、現代の作家まで」(7月2日まで開催)を観て巡る。
パンデミック下で移動が著しく制限されていた間、「部屋」が誰にとっても安心をもたらす空間だったことは確かだろう。「部屋」を創作のモティーフとして取り上げてきた作家は少なくない。気兼ねなく外出できるようになった今だからこそ、部屋をテーマとした作品に触れることで新たな視線や発見があるのでは、というのが趣旨だ。
古典的な静物画の時代背景や、現代作家の綿密な描き込み、小窓や鏡を用いたインスタレーション作品など、限られた空間の奥行や世界の不可思議さに、心地よく引き込まれる。
ムラカミ「海外出張や国内旅行のたび、立ち寄れる限り美術館を訪れています。知っている作家でも知らない作家でも、作品を観るだけが目的じゃなくて、観てきたことで後から気づくような意外な発見もありますから」
併設のカフェで、企画展をイメージしたというスペシャルスイーツ「いちごとヨーグルトのムース、マスカルポーネのアイスを添えて」を味わってひと息ついた後、いよいよお待ちかねのゲルハルト・リヒターの展示室へ。薄暗く絞ったライティングの中で、大きなフォーマットの抽象画に間近で接した後、明らかに軽く興奮状態のカイエさんがいた。
ムラカミ「油彩をのせていった凸凹の跡までが、すごくよく見えるライティングのおかげで、色合いの精密さや迷いの無さまで、じっくり味わえました」
南陽「美術評論のタームでよく『マチエール(物質的な質感)がある』って、言われますよね。わりとクルマにも当てはまるような、特にDS 7のケースでは」
実際、作品の「マチエール(物質的な質感)」に刺激された後、DS 7の車内に戻ると、あらためて素材感のリッチさに気づかされる。
ムラカミ「このシート、一枚革を寄せてつくっているんですか? どうりで包み込まれるような感覚で座り心地がいいわけですね」
南陽「フランスにもマイスター制度に相当するものがあって、小さな革のブロックをつなぎ合わせるのではなく、身体を包む部分は一枚革を寄せて折って縫い込んでいますしね。DSが『サヴォア・フェール』と呼ぶ、匠の技の集成でもあります」
視覚的にはチャコールグレーのマットな質感で統一され、触覚的には適度に引っかかりのある、柔らかなトーンの内装といえる。
南陽 「あとダッシュボードクロックがエンジンを切るとグルンと回って格納されるのには笑ってしまいますけれど、センターのそれが置かれている辺りは古典的なディテールが見て取れます。
時計といえば、ギョーシェ彫りというかクルー・ド・パリ模様は、もともと文字盤の反射防止のための表面加工。外光でギラついたら乗員の目に煩わしい部分に配されている辺り、実はコスメティックでもないです」
ギラつかない高級感というか、しっとりとした諧調の豊かさを感じさせる内装こそが、DSならではの落ち着いた空間を実現させている。
箱根ドライブでDS 7の走りを堪能
仙石原へと下っていく峠道で、DS 7のステアリングを握ったカイエさん。その走りについて思うところが、多々あったようだ。
ムラカミ 「今回のDS 7はプラグインハイブリッド4WDで、電気モーターとエンジンが負荷に応じて切り替わりますが、それがとてもスムーズですね。それから、けっこう足まわりがしっかりしていますね」
南陽 「ええ、何でも近頃はドイツ車から乗り替えるカスタマーが多くて、デフォルトの『ハイブリッドモード』ではあえて固めの足まわりセッティングになっているそうです。ドライブモードをコンフォートにしますと……」
ムラカミ「あ、ホントだ、上下にバウンスする動きがして、乗り心地がさっきより柔らかくなったような気がします」
コンフォートモードでは、前方の路面の凹凸をカメラで読み取ってダンパーの減衰力をアクティブ制御する「DSアクティブスキャンサスペンション」がオンになる。ステアリングの手応えはやや軽くなり、コーナリング中のロール量も、きもち増えている。
南陽 「ある程度の速度域でも、けっこう静かで会話の声がよく通る感じがしませんか?」
ムラカミ「確かにそうですね。でも単に静かなだけでもないような」
DS 7はフロントスクリーンやサイドウィンドウにアコースティックガラスを採用し、遮音材に頼り過ぎないで外界からの騒音をシャットアウトしている。そのため車内の会話の声が内装に吸い込まれ過ぎず、聞き取りやすいのだ。
市街地に入って速度域が50㎞/hになると、DS 7は積極的にリアモーターだけで走ろうとする。
ムラカミ「駆動用バッテリーが残っている限りは、主に後輪を駆動輪にしようとするんですね」
南陽「やや強めにアクセルを踏み込んでみないと分かりづらいかもしれないですが、踏んだ分だけ後ろから蹴り出されて前に進む感触は、あります」
単にA地点からB地点への移動が快適という結果論ではなく、状況に応じて走りを変えて移動の過程を楽しませるところがDS 7にはある。
そうしてドライブを楽しむうちに、食事を兼ねた次の目的地「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原」に辿り着いた。
DS 7が体現する「アート・オブ・トラベル」とは
THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原では早速、パーキングに備えつけの普通充電器にDS 7をつけて、リア左側にある充電口からチャージを開始。こうすることでディナーを楽しむ間に、EVモードでの航続距離レンジを最大限にできる。
2016年末にオープンしたこの施設は、ひらまつらしい美食を楽しめるだけでなく、ダイニングがある本館に、半露天温泉風呂付きの11の客室を備えている。3年半前に別館レジデンス棟9室を加えたものの、それでも計20室というごくエクスクルーシブかつ本格的なオーベルジュだ。
メインエントランスでは、ソニア・ドローネーの絵が旗にあしらわれ、来訪者を迎えてくれる。アンティーク家具が配され、ピカソやシャガールの絵が飾られたロビーラウンジを抜け、窓の外に水盤と緑が広がるダイニングルームに通された。
前菜の「プレミアムヤシオ鱒とフロマージュブランのカネロニ仕立て、様々な野菜とブール・モンペリエ」に舌鼓を打ちながら、DS 7と過ごした一日をカイエさんがふり返りながら、こう切り出した。
ムラカミ「実は僕、シトロエンC6に乗っていたことがあるんです。もちろん少し昔のクルマということもあるかもしれませんが、DS 7のプレミアム感は進化した分、違いがある気がしました」
南陽「C6はサルーンでDS 7はSUVですから、ファッションに例えるとスーツとスポーツジャケットのような違いがある。前者はフラッグシップサルーンのDS 9に任せて、DS 7は後者の世界観を体現しているのでしょうね」
都会派のSUVでありながら、同時にGTのように快適なロングドライブをもこなしてしまう。ジャンルを越境しているけれども、アドオンのゴテゴテしたデザインにならないDS 7の立ち位置は、確かに独特だ。
ムラカミ「なるほど。確かに今、他人とカブりたくないという人が増えているから、そういうニーズに応えるマーケットが来ている感じがします」
南陽「言われてみればDSは、誰もが知っているブランドではないからこそ、自動車としては独自のポジションを築いていますね」
ムラカミ「同時代の人の半分以上は分からなくてもいいし、分かる人にはとことんツボにハマる気持ちよさがありますね。ヒエラルキーの上に成立するとか、価格で守られたラグジュアリーとは明らかに違う」
南陽 「ベースにあるフランス的な匠のモノづくりの技術とかノウハウには、逆にコンサバともいえるほどこだわっていますね」
ムラカミ 「唯一無二であることにこだわるのではなく、『サヴォア・フェール』をはじめとする特長をうまく押し出しているんじゃないかな。それがDS 7ならではの個性になっている」
アート・オブ・トラベル(旅するアート)というDSの世界観は、移動の快適さだけでなく、移動自体をアートと触れあうような特別な時間へと昇華させることにあるのだろう。
DS 7 OPERA E-TENSE 4×4|DS 7 オペラ イーテンス 4×4
ボディサイズ|全長 4,590 × 全幅 1,895 ×全高1,655 mm
ホイールベース|2,730mm
トレッド前/後|1,625 / 1,605mm
車両重量|1,940kg
システム最高出力|300ps
システム最大トルク|520Nm
エンジン|1,598 cc 直列4気筒DOHC+ターボ
最高出力|147kW(200ps) / 6,000 rpm
最大トルク|300Nm / 3,000rpm
モーター|交流同期電動機×2
最高出力 前|81kW / 2,500 rpm
最高出力 後|83kW / 14,000 rpm
最大トルク 前|320Nm / 500-2,500rpm
最大トルク 後|166Nm /0-4,760rpm
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池
総電圧|347v
総電力|13.2kWh
トランスミッション|8段AT
駆動方式|4WD
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|マルチリンク
タイヤ|235/45 R20
ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード)|14.0km/L
価格|799万円〜
問い合わせ先
DSコール
Tel.0120-92-6813
https://www.dsautomobiles.jp/
ポーラ美術館
神奈川県足柄郡箱根町仙石原小塚山1285
Tel.0460-84-2111
https://www.polamuseum.or.jp/
「部屋のみる夢」展の詳細はこちら
コレクション展示「ゲルハルト・リヒター」(7月2日まで開催)の詳細はこちら
THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原 1245-337
Tel.0460-83-8981(9時~19時)
http://www.hiramatsuhotels.com/sengokuhara/
出典:Web Magazine OPENERS