ALDEN|オールデン
短期集中連載 第1回 ALDEN日本総代理店ラコタ代表、血脇孝昌氏に聞く「オールデンが愛される理由」
アメリカのトラディショナルシューズを代表する「オールデン」。1884年に創業し、これまで一貫して革靴を作り続けている老舗である。その特徴はビジネススタイルからモードまで、さまざまなコーディネイトに適する、非常に懐の深いタイムレスなルックス、そして長時間履いても疲れない“圧倒的な”履き心地の良さにある。その優れたディテール、これまで語られてこなかった逸話を短期集中連載としてお届けしたい。第1回目は、オールデンの日本総代理店であるラコタ代表の血脇孝昌氏に、その歴史を振り返ってもらった。
Photographs by OHTAKI Kaku | Text by KOIZUMI Yoko |Edit by TSUCHIDA Takashi
アメリカ東海岸で誕生したオールデン
1884年、マサチューセッツ州ミドルボロウにチャールズ H. オールデン(Charles H. ALDEN)氏によって創業した「オールデン(ALDEN)」。当時のアメリカは南北戦争が終わり、多くの移民を受け入れながら発展を続けていた時代である。
左/オールデンの創業者チャールズ H. オールデン氏。右/1884年創業当時、本社工場の前に集まった社員たち。この工場は1892年まで稼働したのだが、たった8年で工場を移転・拡張した事実からは、オールデン靴がまたたく間に、世間に広く受け入れられたことがうかがえる。
「貴族文化から発展していったヨーロッパの紳士靴とは異なり、アメリカはタウンシューズと作業用の靴など、実用性の高い靴が求められてきました。たとえば狩猟、木こり、大工といったそれぞれの仕事の使い方に合わせた素材や形になっていたと考えられます。いまでもその名残を強く残すのがカウボーイ用のウェスタンブーツでしょう。ルケーシー(LUCCHESE)もオールデン同様に100年以上の歴史がありますし、とくに19世紀に創業したメーカーの靴づくりのベースは“実用”だと思います」
オールデンも創業当初は顧客一人ひとりの足に合わせた靴を手作りしていたが、二度の世界大戦の軍事需要から、量産体制に移行していったと考えらえている。1892年、工場は拡張されてマサチューセッツ州ノースアビントンへ、創業者オールデン氏が引退した1931年に同州ブロックトンへ移り、そして1970年に再び創業の地ミドルボロウに戻り、以来、この地で靴を作り続けている。
「ミドルボロウはボストンからクルマで40分ほど、メイフラワー号が寄港したことで知られるプリマスへも20分くらいの場所です。近くにはクランベリージュースで有名なオーシャンスプレー社の工場があるくらい。古き良き時代のアメリカを感じさせる、牧歌的な田舎町です。創業から何度か移転をしましたが、マサチューセッツに本拠地を置いた理由は、おそらく便利だったからだろうと思いますね。工場の近くにはパーツ問屋もあったそうで、これは国内のみならず、ヨーロッパから靴の部材を調達する問屋のことなんですが、このような問屋を含め、周囲に工場が集まってきたようです。100年前は近所に、近所と言っても範囲はクルマで1~2時間という距離ですが、数十軒ほどの靴屋があったと聞いています」
東海岸は一大靴生産地として発展し、ここで作られた靴は延伸し続ける鉄道に乗って、東へ西へと運ばれていった。しかし大恐慌などを経て、往時から続くドレス靴メーカーはいまやオールデン1社となっている。
オールデンの履き心地の良さとデザイン性の髙さ
生き残った理由はどこにあるのだろう。それが履き心地への追求だ。
「オールデンはつねに『歩くための高品質なギアをつくり続ける』と言い続けています。履き心地にデザインがくっついていると言ってもいいくらい(笑) 日本では『革靴は履いて馴染む』と言いますが、社長にそんな考えはない。足を入れたときから“いい靴”でなければダメで、履かれて初めて完成するんです」
履き心地の要となっているのが、独自に開発したラスト(木型)にある。
モディファイドラストを採用したVチップモデル。価格12万4000円(税別)
1950年代以降、オールデンは本格的にオーソペディック・シューズ(Orthopedic shoes)の製造を始める。オーソペディック・シューズとは、足の治療や運動機能の補助を目的とした靴のこと。整形外科的な視点で木型を開発するため、1930年代の矯正用靴をベースに改良をスタートする。そして1963年に誕生したのが、モディファイ(改良)の名を冠した「モディファイドラスト」である。
これは、ハイアーチ(土踏まずが高い)やハンマートウ、X脚、甲高、偏平足など、足に悩みがある人にも沿うように考案された形状を持つ。足入れしたときに最初に感じるのが、土踏まずが持ち上がるようなフィット感だ。靴を裏側から見ると、土踏まずの部分が内側に強くカーブしていることが分かるが、これにより、土踏まずが持ち上がるのだ。
「足はずっと使っていると、土踏まずを中心に足裏が平たく、広がっていきます。これが疲れの最大の要因のひとつなのですが、モディファイドラストだとアーチをサポートしてくれるんです」
土踏まずにフィットするので蹴り出しがよく歩きやすい。また安定して同じ位置に足が収まることで、正しい位置で体幹を支えるため、長時間立っていても疲れにくい特徴がある。こうした整形外科的なアプローチをベースに、培ってきた技術を他のラストでも応用することで、履き心地の良さを生み出しているのである。
そして、モディファイドラストによる履き心地と、靴としての美しさを両立し、誕生したのがUチップ(アメリカでの呼称はアルガンコン)モデルである。現在は“Vチップ”と呼ばれているモデルだ。
そしてこのVチップこそ、オールデンがファッションシーンでも認められるきっかけとなった。
オールデンの履き心地は、世界に知られる存在に
「1980年代かと思います。当時、モディファイドラストはオールデン独自のフットバランスシステムというカテゴリーに属していて、矯正等の専門性の高い店でのみ扱っていました。そんな専門店のひとつがニューヨークのジャコブソンで、この店を訪れたのがパリでセレクトショップ『HEMISPHERES(エミスフェール)』を開いていたオーナー、ピエール・フルニエとジャン・セバスチャンだったんです」
ピエール・フルニエはセレクトショップの先駆的存在『GLOBE』をつくった人物。そして、その履き心地の良さに驚いたふたりは、さっそく自身の店でもオールデンを扱うようになり、世界のファッション業界で名前が知られるようになる。
1980年に、オールデンは日本にも上陸。当時はペニーローファーをはじめ、まるでスニーカー? と称されるほど木型にゆとりを持たせたバリーラストを元とする数モデルが持ち込まれ、徐々にオールデンの存在が浸透していくが、それを後押ししたのがセレクトショップであった。
「バイヤーさんが海外に持っていく、ショップの店員さんが夕方になるとオールデンに履き替えるなど、皆がその履き心地に魅了されていきました。私もフェアやトランクショーなどで1日中、立ちっぱなしということもありますが、オールデンだと本当に疲れない。顔を合わせると『オールデンって疲れないよね』『合わせやすいから、つい選んじゃうよね』と口にするようになり、その評価がスタッフそれぞれの熱量になって、お客様に熱心にお勧めするようになったのではないでしょうか」
ALDEN日本総代理店ラコタ代表、血脇孝昌氏。靴のパーツを扱う仕事に携わるなか、オールデン社長と会い、1994年にオールデンの日本の輸入窓口としての任務を任されるようになった。オールデンの履き心地の良さに魅了されてきたALDENエヴァンジェリスト(伝道師)。
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出典:Web Magazine OPENERS